直腸癌術後の排便障害 下関

直腸癌に対する手術の目的は癌のできた直腸を切除することと、転移しているかもしれない直腸の周りのリンパ節を取り除くことです。癌を取り除いて命を救うための手術ですが、手術後にはそれと引き換えにどうしても避けることのできない不都合なことが起こることがあります。その一つが排便機能の障害です。この障害についていくつかの点に分けて説明します。

 

どんな手術を受けた場合に障害がおこるか

 直腸癌に対して行われる手術にはお腹から直腸を切除する手術と肛門から腫瘍だけを取り除く手術があります。直腸を切除するのは低位前方切除術と肛門括約筋の一部を切除する肛門括約筋切除直腸切除術(ISR)という手術です。肛門から腫瘍だけを切除するのは局所切除と呼ばれます。これらの中で排便障害が起こるのは低位前方切除術とISRです。局所切除では一般的には排便障害は起こりません。

 

障害がおこるメカニズムはなにか

  • 直腸の切除:手術の後はそれまで便を溜める働きをしていた直腸がなくなります。その代わりに直腸よりも細い結腸がつながれています。便を溜める場所が小さくなり直腸とおなじように膨らまないことで障害が起こります。
  • 肛門括約筋の障害:手術の直後に肛門を締める強さを測ってみると手術前に比べて弱くなっていることがあります。つまり手術の後には肛門の締まりが緩くなっています。さらにISRの手術では内肛門括約筋の一部またはすべてを取り除くこともあります。したがって筋肉そのものの働きが無くなっている状態です。そのために便が漏れやすくなります。
  • 神経の障害:癌の進み具合によっては手術の際に肛門に向かう神経の一部を癌と一緒に取り除く場合があります。それによって排便の機能が低下する可能性もあります。
  • 術前放射線療法:手術前に腫瘍に放射線をあててから手術をすることもあります。その場合は術後の排便機能は悪くなる傾向があります。

 

発生頻度はどれくらいか

 どのくらいの頻度で排便障害が起こるかは、手術の内容、とくに直腸を切除した後に腸をつないだ位置と肛門との距離により異なります。一般的にはつないだ位置が肛門に近いほど機能障害がおこる確率は高くなります。距離が短ければ排便障害はほぼ起きると考えていてよいでしょう。
 

どんな症状が起こるのか

  • 排便回数の増加:実際の症状は約90%の人は排便回数の増加を訴えます。手術前には一日に1回であった排便が一日に5?6回、あるいは多い人であれば10回以上排便することがあります。
  • 排便の量の低下:1回に排便する量が少なくなります。
  • 残便感:トイレで排便した後も肛門の近くに便が残っている感じがします。したがってトイレから出た後にまたすぐにトイレに行きたくなります。
  • 排便リズムの乱れ: 2?3日全く排便がなかったのにある日は突然5回以上トイレに行ったりするなどリズムが一定ではなくなることもあります。
  • 急に便意を催す:普通に生活しているとこにある時突然便意を催すことがあります。
  • 便失禁:頻度としては多くはありませんが、いろいろな程度の便失禁がおこります。夜間寝ているときに自分で気付かないうちに下着に便が付着している程度のものから、常にパッドをあてる必要のある程度の漏れまであります。
  • 便秘:まれに便秘になる人もいます。

 

その後の経過はどうなるのか

 症状は数か月から数年かけて徐々に改善します。しかし、中には何年たってもほとんど改善しない人もいます。

 

具体的な治療はなにか

  • 薬物療法:止痢剤やポリカルボフィル・カルシウムを使用します。ポリカルボフィル・カルシウムは過敏性腸症候群のための薬剤で便を適度な硬さにかためて排便機能を整える働きをし、ある程度の効果が期待できます。
  • 骨盤体操:肛門を締める運動を繰り返し行う方法ですが、効果には限界があります。
  • バイオフィードバック:ごく限られた施設で行われている治療法です。肛門に圧を感じるプローブを入れて肛門を締めたときの圧の上昇を目で見ながらトレーニングする方法です。実際の効果は不明です。
  • 仙骨神経刺激装置の植え込み:日本では現在まだ使用できない治療です。仙骨神経を刺激するペースメーカーのような装置を腰の皮下に埋め込む治療です。現在欧米ではすでに治療の一環として行われていますが、日本では現在その効果を試すための治験が行われているところで、近い将来に治療として使われる可能性があります。
  • 人工肛門の造設:排便機能障害がとくにひどい場合にはま患者さんご本人とよく相談した上で人工肛門を造設することもあります。

 

対処方法

  • 経過と症状を知ること:患者さんのなかには手術前には医師からある程度の説明を聞いていても手術後に実際に起こると驚いて何か悪いことが起こったのではないかと不安になる方がいます。手術後にはほとんどの場合排便障害が起こることをあらためて説明されるだけで納得し、安心して頂けることがあります。
  • 専門の病院の受診:排便障害の程度が重かったり長期化したりする場合は手術を受けた病院での治療とともに、排便機能障害について肛門の内圧検査などの詳しい評価と治療を行っている施設に相談することも可能です。

監修 関西医科大学附属滝井病院外科 吉岡和彦 先生

下関市病院 桃崎病院 院長

下関 桃崎病院

 

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