炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)とは 下関

1. 炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)とは 消化管に炎症、潰瘍を生じ、出血、下痢、体重減少、発熱などの症状をおこす疾患の総称で、一般 には、潰瘍性大腸炎とクローン病の2疾患をいいます.世界では、欧州、北米、北欧に高頻度で、 日本、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカは中等度、他のアジア、アフリカ、南米に は少ないとされています.人種的には、ユダヤ人、白人に多く、有色人種にはあまり多くありませ ん.本邦での発症率は、欧米の約五分の一から十分の一と推定されています.厚労省からは特定疾 患に指定され、特定疾患研究事業のもとに、公費で医療費が補助されています.

2. 潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis, UC)の疫学、病因 日本では、平成21年度で約11万人の患者数がいると推定され(特定疾患受給者数のデータから)、 年々増加の一途をたどっています.男:女はほぼ同数で、発症年令は、10代から30代に最も多 くなっています.原因は、遺伝要因、食事、腸内細菌、免疫などが複合しているとされていますが、 まだ特定はされていません.タバコとの因果関係については、喫煙者が禁煙したのちに発症する確 立が高まるといわれており、また、虫垂切除後の潰瘍性大腸炎患者が少ないことが疫学的に報告さ れており、腸管免疫との関与が推定されています.

3. 潰瘍性大腸炎の症状・分類 粘血便、腹痛、下痢、腹部不快感、疲労、倦怠感、発熱、食思不振などが主な症状であり、大腸内 視鏡検査で診断されます.症状、貧血により軽症、中等症、重症、劇症の4段階に重症度分類され、 病変の拡がりにより、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型、特殊型として区域性大腸炎型に分類 されています.また、臨床経過により、初回発作型、再燃寛解型、慢性持続型、急性劇症型(急性 電撃型)の四つに分けられます.症状がなく、内視鏡検査でも炎症のないものを寛解期、症状があ るか、内視鏡検査で炎症のあるものを活動期として、病期の時期—病期を分けています.治療内容は、 病変の拡がりと重症度によって、治療指針が定められています.また、ステロイド剤が効きにくい ものや、効果があっても限定的なものは“難治例”とされ、別に治療方針があります.

4. 潰瘍性大腸炎の治療

(1) 薬物治療:軽症例や中等症では、5-ASA(ペンタサ)の経口薬や注腸薬、ステロイド注腸薬 が使われております.直腸炎型では、とくに 5-ASA(ペンタサ)やステロイドの坐薬や注腸 薬を主に用います.重症以上では、ステロイド治療がメインとなりますが、状態に応じて 5-ASA(ペンタサ)を併用します.また、抗 TNF-α抗体(レミケード)やタクロリムスは 最近認可された新しい治療薬で特に重症例に用いられています.免疫抑制剤(イムラン)は、 ステロイド薬の効果が不十分な場合に他剤との併用で用いられます.

(2) 血球成分除去療法:中等症以上でステロイド薬の効果が十分でない場合に多く用いられてお ります.

(3) 外科治療:病変が高度な場合には大腸に穴があくこともあり、大量に出血したり、大腸がひ どく拡張する(中毒性巨大結腸症)こともあります.このような場合には緊急に手術が必要 です.また、大腸癌になった場合にも手術が必要になります.内科的治療が効きにくい難治 例や重症例の場合にも、内科的治療のバランスの点から手術を選択することがあります.手 術の方法は、大腸全摘ですが、肛門を残す術式と肛門も一緒に切除して永久人工肛門とする 術式があります.大腸粘膜をすべて切除して小腸を肛門につなぐ回腸肛門吻合術、大腸(直 腸)をわずかに残して小腸を肛門管につなぐ回腸肛門管吻合術、直腸を残して小腸を直腸に つなぐ回腸直腸吻合術などがあります.それぞれ、排便機能の問題や術後治療が必要だった りで一長一短があります.

監修 東北労災病院 大腸肛門病センター 舟山裕士先生,高橋賢一先生,生澤史江先生

下関市病院 桃崎病院 院長

下関 桃崎病院

 

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